2013年06月30日
北 重人:2
「蒼 火」北 重人:著 文春文庫 を前回に続いて読んだ。辻斬りを捕まえ、追い詰めるというストーリーだけなのにこれだけ充実した内容を読者に与えることが出来るスゴイ作家です。「夏の椿」も秀逸な時代劇でしたが、これもまたストイックを濃く描いています。二つの作品は時間が前後していますが、逆にこれが深読み出来た理由かもしれません。時代劇を基盤にすると人の命や魂とかいうものを色濃く、コントラストを付けて提示することが出来るのかもしれません。現代はすべてがフラットで、軽く重心が消え去った時代に見えてきました。でもどんな時代だろうと人の心の有り様は同じ筈だけどね。素晴らしい作品でした。是非私と同じく、「夏の椿」の次に「蒼火」を読むことをお勧めします。なおこの巻末の解説もスンゴクいいです。
静岡新聞の「紫匂う」葉室 燐 が終わりました。カット絵の切り抜きも完了です。それで今朝、Eテレの日曜美術館で川合玉堂をやっていたのを観ていて画家の思い入れや素直さに感動してしまいました。達悦したテクニックと構成力を内に秘めながらも素直に書きたいように描いているのだと思いました。安野光雅が頭を過りました。見たいです。山種美術館で8月3日までだそうです。鑑賞予定を組むのだ。
退院したばっかりの母が昨夜のド真ん中にまた入院してしまいました。ちょっとした隙に鼻から入れたチューブを外してしまいました。このチューブは小腸の入口まで達していたけど、小腸から外れたので胃や食道の方まで戻ってしまった様です。困ったので自家用車で抱えながら救急に連れて行たけど、処置出来ないので入院ていうことになりました。家での看護は確かに難しいことがあり、設備や環境の違いは病人にとっては命を左右する大きな要因となります。でも現時点では叶わぬことでもありますので、素直に今を受け入れて行動することしかないのですね。この期に及んで、母にとっては激動の病床です。救急のベッドの上で「どこ?」って言ってたので、「又、病院だよ」って答えました。どれだけ理解しているのか解りません。8月8日で93歳になります。わたしとは違って、強い母です。
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11:40
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2013年06月27日
北 重人
「夏の椿」北 重人:著 文春文庫
既に亡くなられた作家だそうです。建築家、都市計画家でもあったそうです。非常に細かに配慮された記述で読者は丹念にコツコツと劇中を歩んで行く事が可能です。場面がしっかり組み立てられているんですね。上手いんです。だからといって構築過ぎるのかと言えば、そうでもなく感情の起伏の度合いは心臓をドギマギさせるほど豊富です。話は時代劇。甥の死因に疑問を持った侍が知り合いと調べを進めるうちに、辿り着いた人間たちの生き様や、世情(田沼の失脚と米騒動)に翻弄されながらも、悲しみをともなった解決に辿り着く。と言ってしまえば簡単なんだけど、そこの面白さの肝心なところを上手く書けません。情景や登場人物との描き方は、都市計画家そして建築家らしく丹念でありながら、くっきり鮮明に感情を交えながらも情景にしています。登場人物の絡みも実に計算された演出だと思いました。次が読みたくなる作家ですが、この後数冊しか出ていません。非常に残念です。
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11:24
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2013年06月26日
世界遺産
近頃この静岡県は世界遺産で大騒ぎなんだけど、ちょっと首を傾げる時もある。それは車で1号バイパスを藤枝から沼津に向かって走っていて富士川を越えた辺りからの景色に遭遇してである。この工場地帯は世界遺産の審儀委員にどう映ったのだろうか。また今この発言はタブーなんだろうか。経済成長の時代にこの地域活性化を担って、今も人々の糧を創り出しているのでしょうが、この問題は三保の松原と同じく我県民に「それでいいの?」という他者の眼差しが向けられている気がする。見て見ないふりをする?気が付いているけど言うと禍が起きて責任が発生すると面倒臭いから黙っている?てなところでしょうか。それにこの世界遺産登録の経済効果のみを期待している空気が横溢していませんか。後ろめたくないんでしょうか。日曜日の世界遺産の番組を見ていて、この富士山の周辺が映し出されたら幻滅だと思う。でも賛成の投票にチェックを入れたのは、これを機会に環境や景観に配慮して改善されていく事を期待しているからです。今世界遺産にでも登録しておかないと、この富士山周辺の環境は劣悪な景観になることを危惧しているのかもしれません。この国はまだ鎧や冠やお面に弱いんです。権威にね。田子の浦は多分古代には世界遺産に匹敵する大きな湿地帯で富士の高嶺を含めた雄大な自然と豊富な海産物を背景にした人間の営為を見せていたんだろうと思います。取り戻すことは叶わない幻でしょう。
せめて太宰の云う月見草と富士がどんなものかを見たいですね。 文化遺産じゃなくて自然遺産を目指さないとね。提灯行列ってのも戦時中の戦勝ムードを想起してしまうので、反対です。本当はずっと前からこれを書こうと思っていたのだけれど、書かない方がいい、また書いちゃいけない、と思っていたのです。何故でしょうか。時代の空気ってのはテレパシーのように蔓延するものなんですね。でも今朝、このeしずおかにアンケートがあったので、勇気を出して書いてみました。吾輩は小心者である。
せめて太宰の云う月見草と富士がどんなものかを見たいですね。 文化遺産じゃなくて自然遺産を目指さないとね。提灯行列ってのも戦時中の戦勝ムードを想起してしまうので、反対です。本当はずっと前からこれを書こうと思っていたのだけれど、書かない方がいい、また書いちゃいけない、と思っていたのです。何故でしょうか。時代の空気ってのはテレパシーのように蔓延するものなんですね。でも今朝、このeしずおかにアンケートがあったので、勇気を出して書いてみました。吾輩は小心者である。
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08:50
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2013年06月21日
なだいなだ
古典を読む「江戸狂歌」なだいなだ:著 岩波書店 を読んだ。先日亡くなられたので、図書館に行って探していたら、コーナーを設けてあったので、数冊借りてきた。面白かったのはこの本である。まだまだ知らないジャンルが一杯あることを実感した次第である。狂歌というものが文化的に一体どんな役割を担ってきたのかを知るうえではこんなに分かり安く紹介されている本はないのではないかと思う。封建時代という身分制度の中で、隙あらば何処かに自由を探して自分自身のアイデンティティーを表現していった古人たちのユーモア精神を時代と共に紹介しています。どんなに時が流れても人はアイデンティティーの為には自由の隙間を探してそこで表現しているものなんですね。狂歌は遊びから始まった文化の一つですが、この文字を獲得したことから始まる「遊び」こそが自由の種ともいえるのです。狂言なども然りです。文化の歴史も面白いですねー。蜀山人(四方赤良)を知りました。狂名も面白いのばっかりで、この蜀山人の四方赤良も「夜も明ける」ってなダジャレです。他にもすごいのばっかりです。いいんです。自由なんです。
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10:11
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2013年06月17日
初めての島田荘司
「暗闇坂の人喰いの木」島田荘司:著 講談社文庫を読む。680ページ、長い。奇妙変人の探偵が悍ましい殺人事件を解く。何人も死ぬ。そして、巨木の楠の所為にする。著者までもである。納得がいかないのは私だけ?人間以外の罪人なんて居ないゾ。本格ミステリーもいいけど、時にはそのトリックの技が気にかかる。あれはこーいう事だったのかという前段が開示されていないと、トリックは見破れないんです。そのトリックにも情の根底がほしいのだが、それを読みたい私は古いのかもね。猟奇的人間と変態人間と戦後のカオス的状況とエキセントリックな人間たちを登場させればこんな物語も成立するだろうけど、ゲーム的である。ブログで初めて批判してしまいました。いけなかったかな?スコットランドのインバネスでのくだりは地図を広げて読んで楽しかったし、暗闇坂の景色を想像したりして面白かったと思う。以上。
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22:07
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2013年06月15日
なだいなだ
昨日の新聞で なだいなだ さんにの死去を悼んで加賀乙彦さんが回想していた。北杜夫、なだいなだ、加賀乙彦の三人の繋がり、三者の断片である。何冊かを読んだだけなのであるが、三者には共通するものがあると思っている。既に他界されている辻邦夫も含めてである。80歳を超えたこの人達は確かに私たちに何かを教えてくれた。それは考えること、その一つである。なだいなださんは本当にナーダイナーダになってしまった。無そして無。
左の安野光雅の装丁画である。どんな、どこにでも画いてある画は美しく楽しく人を喜ばせる絵である。現実の景色を天国の絵に瞬く間に変換してしまうのだ。そしてそれは、どこの、どんな人の心にも共感させる何かである。この世はそういう風に安野光雅の眼には見えるんでしょう。
ファインバーグ展の記事も載っている。たしか、鯉を正面上からみた絵もあったと思う。なかなか描けないよ、この絵はすごいと思った。江戸東京博物館である。いいなあ
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08:25
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2013年06月11日
「蛍火」
「蛍火」蜂谷 涼:著 文春文庫 を読んだ。舞台は明治後期の小樽。表紙や題から想像して裏悲しい物語であることが一目瞭然で、確かに涙を誘う物語である。しかしながらそれだけでは終わらない強烈な伏線や、力強さを時間の軸を絡ませて感動を生んでいる。主人公の染み抜き屋の「つる」の壮絶な人生を描きながら、他の登場人物の人生も小樽、いや北海道という特殊な地方が背負ってきた痛ましい歴史(幕末の動乱期から北海道の開拓への意味)に重ねて語っている。何か月か前にこの小樽の町の海岸通りを通り過ぎた時に、修学旅行の子供達が大勢キャーキャーと行列していたのを思い出したけど、多分全員この北海道の裏の歴史の事は何一つ知らずに騒いで居たんだろう、でも、いつの日かこの子供達もこの小樽、北海道の壮絶な歴史を知って小樽を再び思い出して欲しいと思った。歴史から逃げないで読んで欲しい物語です。連作短編の物語ですが、展開が素晴らしいのでじっくり味わってみてください。なお、蜂谷涼は解説を読むと女性である。
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09:08
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2013年06月05日
鯨統一郎
「隕石誘拐」宮沢賢治の迷宮 鯨統一郎:著 カッパノベルス
純真無垢な科学者の理想というイメージの宮沢賢治をオカルト宗教に仕立て上げた団体との戦いが、これまた純真無垢な一市民に降りかかってくる。筋としてはこんなかな?だから極普通な(こんな普通ってある?)マニアからすれば荒唐無稽というより、邪道っていわれるかもしれないけど、まあそれもよしってことでいいのかもしれない。作者はあの「邪馬台国・・・」の鯨さんです。面白かったですね。
面白いのは、宗教やら、思想、鉱物、星座、とアラユル知識の事が書かれていて、ああ宮沢賢治のマニアっていうのはこんなところに惹かれちゃうんだろうな、って思いました。通り一遍の半可通でも読めるから、それはそれでいいのだ。興味がそれ以上に募って、もっと知りたいと思えば、その時はその時なのである。結論は虔十を教えてくれたマコちゃんの云う「ひとそれぞれ」である。この虔十もちょこっと出て来たよ。
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09:11
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2013年06月02日
地震
「大江戸ぐらり」出久根達郎:著 実業の日本社文庫 写真は夜で蛍光灯の明かり。影が不気味です。
副題は安政大地震人情ばなし 安政地震の時の話を拾い集めて、面白おかしく、または人情の暖かさを連作物語にしている。前半はむすめ:おようの話しで、震災後をどんな風に生きていくのかをベタだけれども「それでいいんだ」と思わせる健気な女を創出している。あとの半分はもろもろの市井の人達の面白おかしい地震の時の話である。とくに印象に残ったのは、「いろはにほ」で、へとへとと続く。私だったら違った展開にしていたかもしれない。子供は父の事を知っていたけど、知らないふりをしていた、とかね。でもなかなか話の創り方が旨い。あとがきのようなあとがきもひねりひねりで好きです。
今日の日曜美術館で漱石と日本絵画をやっていた。漱石の美術感が漱石の作品を創り出していると芳賀徹先生はおっしゃっていた。全くそのように読んでいなかった私はなにを読んでいたんだろう。あんなに好きな抱一の「秋草図屏風」も関連づけて読んでいなかったとは、情けないですね。もう一度読み直そう。で、この漱石なんとか展は静岡にも移動してくるらしい。いくぞ!
Posted by 新茶 at
22:00
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